2020年09月13日

ボウハンティング

銃の普及以前の狩猟道具は弓矢、矢速が低く急所を狙える射程距離は名人でも20~30m程度でした。弓矢も近年では用具も進化し、和弓で60m/s、コンパウンドボウで100m/sの初速が可能です。

弓では28mから直径36cmですが、オリンピックのアーチェリー競技では70mから10点圏が12㎝強の的を狙います。2倍の距離で半分以下の大きさの的ですから、和弓より洋弓の方が遥かに高精度です。

洋弓なら70mの射程が十分有るかの様にも見えますが、実戦での落差補正を考えますと、現在でも有効射程は30m前後となり、50m前後が限界となりますが、十分な試射が出来れば 80mも可能です。絶対確実と言う事になると10~20mです。

飛び道具研究科のケンさんはピストルやパチンコと共に洋弓も30m先の空き缶を外さない程度の腕前は持っていました。
ボウハンティング
写真は2000年にアラスカ北部に於いて、ボウハンティングに 飛び入り参加し、捕獲させて頂いた時の物です。当時の弓矢もパワー的には馬鹿に出来ず、射程距離以外は 少なく見ても猟銃と同等でした。 

現在のコンパウンドボウでは更に強力となり、マグナムライフル並のパワーがあります。
因みにアメリカでは人気NO.1のボウハンティングですが、日本では狩猟法で禁止されています。

   野性動物へのハンディ
1990年頃からの狩猟用ライフル銃は300mの射程を持つ様になり、野生動物側にハンディを与える狩猟方法が検討されました。そして次の4種が検討され、ボウとショットガンが生き残りました。
ボウハンティング
  1-1.短銃による狩猟:454カスールでは300grの弾頭を1625fps、パワー1759ft-lbfと数字的には20番スラグ並以上と立派な数値ですが、撃つとなると話が別になります。

何とかまともに撃てるのは44レミントンマグの270gr、1450fps、1260ft-lbf程度までとなります。射程距離を短くして野性動物にハンディを与え様とする物ですが、極めて短い銃身からは精度を求める事が出来ず、半矢未回収が多く余り普及していません。

ボウハンティング
  1-2.マズルローダーハンティング:16世紀頃のマズルローダーならば短射程ですが、マズルローダーの定義が拡大され、ライフリングも無煙火薬もサボットも全てOKとなった為、現用ボルトアクションライフルを改造したモダン型のマズルローダーでサボットを使えば現用ライフルとの性能差は無く、野性保護意味が薄くなり普及していません。
 
  1-3.ショットガンハンティング: 初期には射程50~80mのノーマルスラグ弾で検討されていたのですが、 サボットスラグもOKとなり、最大射程は150mとなりました。それでもライフルの300mからすれば射程は一応半分とハンディは確保されており、精度の実用性も十分にあり、よく普及しています。

エゾ鹿猟はこのサボットスラグ銃のお陰でライフルまで経験年数が届かない新人ハンターでも実戦が可能になりましたが、その習性上から超大物ボス級に対しては射程距離不足です。

  1-4.ボウハンティング:その名の通り弓矢による狩猟です。撃たれても音がしないので獲物が余り逃げず、出会い率も捕獲率も銃を使用する猟に比べてかなり高いので非常に高人気です。またド至近距離までじっと引き寄せるスリルも魅力です。

射程距離は30~50m程度であり、野性動物側に最も大きなハンディを与えた事にもなります。多くのエリアでは最初ボウで解禁し、次がショットガン、最後がライフルになります。
ボウハンティングボウハンティングボウハンティング
ボウハンティングボウハンティング
写真は左から従来型のリカーブボウ、初期型のコンパウンドボウ、後期型のコンパウンドボウ、そして使われる矢はカーボン製、先端の矢尻には剃刀の様な刃が3枚付いています。矢尻は他にもヒットすると開く物等々の数種類があります。

従来型ボウでは矢の刺さる深さもそれ程深くなかったのですが、初期型コンパウンドボウでは深く刺さる様になり、後期型のコンパウンドボウでは大物エルクでも貫通する様になりました。照準器は落差補正用に5種類前後のセッティングが可能になっています。

ライフル弾でもそうですが、貫通すると出血が数倍多くなり、倒れるまでが早くなり、且つ追跡が容易になります。ケンさんの使う308のバーンズ銅弾頭の140grは大物エゾ鹿のショルダーを貫通しますが、超大物エゾ鹿のショルダーでは最後の皮の所で止まっており、貫通と言う点で行けば後期型コンパウンドボウはStdの308弾以上のパワーと言う事になります。

即倒すると言う点では現在の高速ライフル弾が1番良く倒れます。特に銅弾頭ならではの撃ち方ですが、前足軸線上の背骨との交点付近がベストポイント、100%即倒します。

   狩猟方法
ボウハンティングのみの特別な方法は無く、銃を使った狩猟時と同様の種類となります。

  2-1.木の上の待ち場: 左写真の様に大きな木の中腹に足場を作り、鹿の通過を待ちます。
単純な通過待ちに加えて、人工的に水場やエサ場を作ってすぐ傍、またはそこへの途上を狙います。鹿の天敵はオオカミ等であり、地上の周囲には相当注意していますが、上空からの天敵はおらず、比較的注意が甘い盲点を突きます。
ボウハンティングボウハンティング
  2-2.平たい土地の待ち屋: 2-1と同様の考えですが、適当な足場を作る木がない時は、右イラストの様な待ち屋の小屋を作ります。イラストは銃猟用で、ボウの場合はもう少し天井を高くします。2-1も同様ですが、撃ち下ろしになる事、撃つ地点を予め決めておけば、射撃距離が事前に分かり、照準器をその距離にセット出来ますので50m以遠でも大丈夫です。肺を撃てば下記の理由で間もなく死亡します。

ボウの狙い目は心臓付近となります。ヒットによる出血と、胸腔に穴が空く事によって呼吸困難になります。ボウでは銃の場合と違い、その場で即倒は殆ど無く、多少の追跡が必要になります。

肺自体に呼吸機能はなく、胸腔を外力により収縮させる事によって肺を収縮させて呼吸をしているのですが、胸腔に穴が空きますと肺が縮んだままとなり、呼吸困難となります。その為には追跡が容易になる様に矢が 刺さったままよりも、貫通する法が望ましいと思います。

アメリカの鹿猟は山奥に秘密のエサ場を作る為に、狩猟用バギー用には農業用アタッチメントの用意もあり、銃砲店では牧草の種や肥料も売られています。僅か1カ月の狩猟の為に事前努力を怠らない、この姿勢は見事と言えますが、そこまでしないと1頭の鹿が獲れないのも気の毒な話です。

  2-3.忍びのコール猟: 鹿猟の解禁は何処の国でも鹿の繁殖期となり、良く響く独特の声を出し、鹿は自己の存在をアピールします。そして自分の近くで他の鹿がアピールを始めれば、これを追い出しに行きます。

ケンさんもエゾ鹿で以前コール猟をやって見ましたが、本当に大物鹿が数十mまで来ました。
ただ出会い効率が低く、その後は牧草地の姿丸出しで自己アピールする、鹿に出会う作戦をメインにしましたが、この場合は100~150mの距離となり、短射程のボウでは手も足も出ません。

山に入ったらコールを吹いてみます。反応が有ればその方向に進みます。
そしてある程度まで近寄ったら最後のコールを吹き、射撃に備えます。上手く行けば相手の鹿が確か声はこの辺と言う感じで探しに来ますが、多くは人間である事を見破られ、射手の視界外で引き上げてしまいます。

従って最後まで鹿で通すか、動かない仏像の如くで過ごすか、どちらかに徹しなければなりません。
銃猟の場合はコールの反応の合った場所の近くで、山から降り易い場所に早朝もしくは夕方に出現しますから、それに合わせた出撃が良いと思います。

  2-4.巻狩り: 待ちと勢子に分かれて行う場合もあれば、全員が勢子の場合もあります。
日本の巻狩りと似た方法も在ればそうでないのもありますが、共通は放した猟犬が使えない事です。

ケンさんがアラスカ北部で体験したのは、渦巻き状に歩きながら輪を徐々に狭くして行く、眞に巻狩りと言える物でした。3人組がちょうど始め様としており、フォトOK?と申し入れた所、スペアの弓があるので、お前も参加しろと言う事になりました。アラスカ北部の銃猟は全面的に禁止され、ボウハンティイングだけが可能です。

銃で撃たれないカリブーは100m以上離れれば、人間の存在を全く気にしません。遠巻きに囲い込み、当初は直径200m位から始まり、その輪を渦巻き状に徐々に縮じめて行きます。

やがてカリブーは囲みの薄い所を突破しようとしますが、そうはさせじと両側の射手が走ってそこを狭くします。結局最後には何処かを突破し、その時に射撃可能になりますが、射程限界のしかも動的である事が難点です。

ケンさんの時は30m先を全速で突っ走って抜け様としました。
照準は落差少々、リードはベラボー、ライフルの10倍位の感触でスイングショットの矢を放ちました。当初前を通過してしまうかに見えましたが、突然矢が見えなくなり、同時にカリブーの走行速度が低下しました。そして数十m走って倒れました。

ボウは初期型のコンパウンドでしたが、矢は貫通していました。冒頭の写真がその時の物です。尚、後刻リードをケンさんしました所、やはりライフルの10倍の5.2mでした。

ボウハンティング
専用ロッジに自家用機、羨ましい限りですが、秘密の牧草地の話でもそうでしたが、そこまでしないと獲れないのも気の毒な話です。その点ケンさんのエゾ鹿スクールなら朝飯前に楽勝1頭、夕飯前に更にもう1頭、毎日2頭を捕獲する事は何ら難しくはありません。

世界中の狩猟を調べれば調べる程、エゾ鹿猟は類稀な状況にある事が分かります。
折角恵まれたこの国に生まれたのですから、是非エゾ鹿の大物との勝負をタップリ楽しんで下さい。

   エゾ鹿の巻狩り
エゾ鹿猟の話が出ましたので、巻狩りの話を少ししたいと思います。
エゾ鹿の巻狩りでは勢子は鹿を追い出す係と言うより忍び猟を行い、それに押された鹿を待ち場で撃つと言う感じになります。結果的には勢子の捕獲が圧倒的な率となり、その10倍の射手の射撃チャンスは非常に僅かです。

多くは民宿主導で行われ、鹿の移動を促進させる為に多数の猟犬を放す民宿もあります。
チャーターガイド猟に比べガイド代が不要な為、安価に済みますが、捕獲率はその価格比率以下となります。

それに比べれば本州鹿の巻狩りの完全勝利はそれほど難しくなく、「禅の心作戦」で完璧なのですが、それは猟犬がこちらを向いた時から、30分間だけ「姿丸出し」で「見張りを辞めて」待機し、且つ自らが発する「殺気」と「気配」を大幅に減少させる為に、仏像の様に微動もしなければ、鹿は高確率で視界内まで来てくれます。

鹿の目は両側にあり、立体映像を見る事が出来ませんから、丸見えでもじっとしていれば気付かれる事は無く、見張らなくても来れば丸見え、十分引き付けてスナップショットで簡単に捕獲出来ます。

しかしエゾ鹿猟巻狩りでは朝から夕方までの昼食持参でかなり長時間をそうしなくてはならず、通常の場合は禅の心作戦も通用せず、本州鹿の巻狩りよりかなり難しいのが実情です。90%以上がかなり早期に射手の存在を気付かれ、視界外で迂回されて射手の一方的敗戦に終わります。ケンさんの知り合いのハンターも毎年3日間実猟を10年間通いましたが、1頭も獲れませんでした。

   チャーターガイド猟
またケンさんのスクールにも民宿巻狩りを3日ずつ3年間行った生徒が3名来ました。流石に捕獲はゼロではありませんでしたが、捕獲は小物数頭に留まり、3段角は見た事もないと言うのが共通でした。

ケンさんのスクールでは10月下旬からの1ヶ月であれば、平均出会い数は5回/日、捕獲は2頭/日、内容内訳は出会いの70%が3段角の成獣オス、20%が大物、5%が超大物でした。メスや小物は出会う事が少なく、居ても誰も獲りません。上級ガイド猟では民宿巻狩りの10倍以上の成果が期待出来ます。

ボウハンティングボウハンティング
何時も左写真の様には決してなりませんが、朝飯前に1頭を捕獲する事は難しくなく、上手く行けば朝飯前に複数以上の捕獲も夢ではありません。最大捕獲数は5日猟で19頭です。大量捕獲には回収補助人が 不可欠ですが、ケンさんの最大捕獲数は5日で50頭でした。ランニング射撃が可能であれば1つの群れ から平均数頭を戴く事も難しくはありません。ケンさんはこの時の5日間に5発5中を3回記録しました。

また上級ガイド猟であれば、超大物との出会いは5%ですが、実は悪天候明けに集中します。
一生に1度だけでも対戦したい夢の超大物ですが、そんな日に当たり、迫力負けを克服していれば、右写真の様にこれを束にして帰還する事も難しくはありません。




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Posted by little-ken  at 09:45 │ハンティング銃と弾