2020年07月30日

エゾ鹿猟の射程距離の変化。

  近距離50m時代
太古の弓矢の時代から1990年頃まで、エゾ鹿は永らく50m前後にいました。
それはこれらの時代の50mは遠く命中率が低いので、高価な矢の紛失を恐れ、先込め銃や村田銃も命中率の低下から弾薬節約で撃たなかったのです。

そんな50m時代は初期のスクール(2002~)時代まで続き、稀には10m前後にいましたので普通のスラグ銃でも楽勝捕獲が可能でした。そう言う鹿はメデタイを超えていますのでデメキンと呼ぶ事にしました。初期に捕獲ゼロの生徒が皆無であったのはデメキン鹿のお陰でしたが、そう言う10mのデメキン鹿は2007年を最後に見なくなりました。

  中距離100m時代
2005年頃からエゾ鹿は毎年少しずつ距離が遠くなり、やがて2010年頃には100m戦後となり、サボットスラグ銃と100mの射撃技術が必要になりました。
この時代の捕獲ゼロの生徒が皆無だったのは、事前射撃教育と本人努力の相乗効果の賜物でした。
2013年には一気に遠く150m前後となり、サボットスラグ銃も届かない事がよくありました。

150mはライフル銃でも難度が増す距離であり、地元のアマチュアライフルハンターは出撃しても獲れない事が多くなり、出撃が大幅に減少しました。その結果2015年頃には再び鹿は80~150mに戻り、サボットスラグ銃でも何とかエゾ鹿猟が可能になり、現在に至ります。
しかし駆除慣れした1部のシカは150m以遠であり、また大物の習性上からデカくなる程、広い場所に出現しますので、大物や超大物と勝負するにはライフル銃が不可欠となります。

  照準時間の変化
駆除は今や年中行事となり、鹿は1年中狩猟圧力下にいます。
結果的に150mにいるのですが、そこにいればライフルでも余り撃たれない、また撃たれても余り当たらない事を学習済なのです。

もう一つの昨今の傾向は、銃を向けると3~5秒で動く個体が増えた事ですが、そうすれば照準が非常に難しくなります。これもシカが学習して得た行動です。しかしその対策は簡単です。まずは150m射撃の精度を上げれば良く、次に3秒程度で照準を終えて、発砲出来る早撃ちに対応出来る様にすれば良いのです。

  対策方法その1:近距離用スナップショット
銃を構える行為は以下の様になります。まず銃を肩に着け、頭がスコープを探しに行き、それからスコープで鹿を捜索し、その後に長~い照準に入ります。通常ですと発砲まで10~30秒を要します。
スナップショットはこの時間を1/10以下にする早撃ちテクニックです。手法は銃身で目標を指差す様に突き出し、まっすぐ肩に引き寄せます。体の方は銃身の突き出しと同時に最終姿勢に移行します。

すると頭はすでに最終位置にあるので、ショットガンなら銃が肩に着く遥か手前からリブを通した照準が可能となり、ライフル銃でも肩に銃が着く少し前から不完全ながらスコープから映像が得られます。
銃が肩に着く前でもすでに照準が出来ているのですから50m以内であれば撃てば命中します。
これがスナップショットです。これが出来なければ他の上級射撃にも効果は出ません。

  対策方法その2:中距離用150mアバウトショット
銃だけに撃たせる150mの10㎜代のワンホール射撃が出来る技術と、スナップショットが出来ると言う事が前提条件になります。ワンホールは銃だけに撃たせる、かなり高度な精密照準をしなければ達成出来ません。これ自体は実戦には不要なのですが、これが達成出来れば他の全ての射撃精度が向上します。

ワンホールからすれば獲物の急所は直径15cm程度と1桁大きく、スナップショットで構え、アバウト的な照準のままのヨイ加減で早撃ちしても急所の何処かには命中します。これが150mアバウト早撃ちの考え方です。銃は速く構えられるに越した事は無く、スナップショットは全ての射撃の基本となります。

  対策方法その3:遠射300m
昨今の市販ライフル銃は150mワンホールと300mの遠射能力を持っていますから、150mワンホールが達成されれば300m遠射達成も時間の問題となります。300mの最大の失中原因は落差補正の不安です。通常ですと300m射撃は落差補正が必要になり、補正に自信が持てないと命中しません。

しかし次の2つの手法で300m遠射は落差無視の直撃照準が可能になります。
因みにケンさんは150mゼロインですが300mの落差量は知りません。それでも失中する気がしないのです。

   その1:全依託射撃による銃の跳ね上がり。
全依託射撃を行いますと、銃が発射の振動で跳ね上がり、弾着は上方にずれ自動的に落差補正が行われる方向になります、次項の上下方向に長い急所なら直撃射撃対応が十分に可能となります。
落差無視でも命中すると言う自信が湧けば、命中率は激増と言うか、最早失中は考えられなくなります。

   その2:上下方向に広い急所に照準する。
銅弾頭は鉛弾頭と違い骨にヒットしても威力を失いません。この特性を利用し積極的に骨を狙います。骨にヒットすると脊髄にショックが伝わりやすく、高確率でその場にひっくり返ります。鹿が横向きの場合、最も良いのは背骨との交点ですが、前足の軸線に正しくヒットすれば何処に命中してもその場に倒れ、動けなくなります。

  スナップショット50mと150mアバウト早撃ちと300m遠射。
この前者2つの射撃が出来る様になりますと、0~150mの鹿に対し最大3秒程度で発砲出来ます。
3秒であれば殆どの鹿が動き始める前に発砲出来、逃げられる不安が概ね無くなる為、精神的に大幅有利な射撃となり、命中率は格段に向上します。
そしてやがては300mの遠射も前足軸線ヒットの自信が付けば、失中する筈が無いと思える様になります。

合わせてケンさんは撃つ直前に行う「おまじない」を開発しました。それは「そっと撃つ」を心に3回念ずる事です。このおまじないを実行する様になってから、失中は完璧皆無となりました。
愛銃を信じ、不安を無くし、おまじないを実行する、これで全ての射撃は完璧となるのです。
これに走る鹿の「ランニングショット」や、動き始めの鹿にも命中させられる「ムービングスタート射撃」が加われば鬼に金棒となります。

  永年の実戦経験から分かった事
エゾ鹿猟の射程距離の変化。
              写真はケンさんの愛銃、サコー75改
銃やスコープ、そして弾薬は特別製である必要は全くなく、市販の普及品で大丈夫です。ケンさんの愛銃はサコー75バーミンターを短縮軽量化した25万円の市販銃、リューポルドの安物の3万円のスコープ、使用弾は酷評のロシア製超激安弾80円/発、弾頭は命中しないのと倒れない事で悪評の20円/発の初期型バーンズ140gr、しかもクリーニング無し、悪条件の塊と言えます。
しかしこの悪条件下でも数々の大記録を達成出来ました。
エゾ鹿猟の射程距離の変化。
     写真はケンさんの超激安使用弾。
市販弾薬の一覧表を見ますと、口径と弾頭の違い等で約150種類もあります。
少しでも捕獲率を上げ様とした結果だと思いますが、弾薬は小動物用に22LR、中型動物、鹿クラス、大物クラスの4種で十分なのですから、150種は最早傑作と言えるレベルの代表的な無用無益な行為でした。

良く倒れる事を売りにしているハイパワーマグナム銃、命中率の良さを売りにしているカスタム銃、高命中率の為の必需品を匂わせる高級スコープ、高精度の為には不可欠を匂わせる精密ハンドロード、銅や鉛を除去 する薬剤による完璧なクリーニング、これらは全て大嘘であり、全て不要でした。
講師が悪条件下で出した数々の大記録がこれを証明しています。

  心を鍛える
通常の経験の少ないハンターの場合、至近距離の出会いに対してはスコープに捉える事が出来ず、チャンスを逃がしてしまいます。急に動いた鹿に対しては旧位置に向けたアセリ発射に終わります。中距離射撃では 逃げられるかも知れないので、早く撃たなければと言うプレッシャーに耐えかね、そして遠射の場合は落差 補正の不安から、それらの結果は共にカスリもしない失中となりました。

超大物エゾ鹿との勝負はエゾ鹿ハンターの夢ですが、勝負出来る確率はケンさんのガイドの場合で約5%、5日に1回です。勝負の結果は超大物の迫力に負けた、足が地に着かないカスリもしないダメ射撃でした。
捕獲成功までには実績で20日を要しますが、迫力負けの経験を5回前後必要であり、3日出撃では7年前後を通う必要があります。
エゾ鹿猟の射程距離の変化。エゾ鹿猟の射程距離の変化。
猛獣ヒグマとの勝負出来る確率もそれよりやや低い数%でした。その結果は迫力負けのエゾ鹿と同様な結果に陥る場合に加え、更に恐怖負けがありました。これに陥りますとフリーズになって動けなくなるか、気違いに刃物的にあらぬ方向に撃ちまくるかのどちらかになりました。

失中原因の概ね100%が銃や弾の精度不足ではなく、射手の心の訓練不足で、迫力負けや恐怖負け対策が至らなければ、貴重な実戦の良い出会いも全てカスリもしない無効射撃に終わってしまいます。その肝心の一瞬に上手くやる為には、足が地に着かない舞い上がった状態でも、手足が予定通りの行動をしてくれる様になるまでしぶとく訓練する事です。

反動を恐れる為に照準がズレてしまう様なフリンチング対策等の基礎練習は必要ですが、その後に本当にやるべき事は射撃場通いや机上理論ではなく、心を鍛えるイメージトレーニングです。
このトレーニングと実戦での場数経験、これが実戦で成果を上げられる唯一の手法です。

しかしランニング射撃だけは射撃理論が多少重要になります。
命中への必要条件は安定したスイングの継続と、見ないまま引き金を引く思い切りの良さです。
これに対し通常射撃では、銃を静止安定させて肉眼で照準しますので、ランニング射撃には理論の違いから対処不能となり、ダメ元射撃にもなりません。

ヒグマ勝負には迫力負けや恐怖負け対策が必要なのは言うまでもありませんが、ケンさんが倒したヒグマ6頭は2頭がスナップショット、4頭は動いていましたからムービング射撃が不可欠になります。
栃木O生徒は50日ほど通って、50mの歩いているヒグマに後方から2回射撃が出来ました。
2回ともイージーチャンスであったのですが、2回とも銃を止めて狙い込んでしまった為、かすりもしない失中となりました。勿体ない限りですね。




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Posted by little-ken  at 10:29 │ハンティングヒグマ銃と弾